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雪は天からの手紙。      

その文字は結晶のかたちという      

暗号で書かれている。      


【中谷宇吉郎「雪」より】          




【物語】

1936年3月12日、
北の大地に春まだ遠い、なんの変哲もないある日。

太平洋戦争開戦まであと5年、
原子力の雨が長崎・広島に降る日まであと9年、
35歳の中谷宇吉郎ほか助手や学生たちは、
今日も北海道大学の常時低温実験室である研究に没頭していた。

中谷たち研究チームは、
完全なかたちの雪の結晶を作りたいと日夜研究を重ねていた。
人工的に作りあげた雪の結晶が、
どうしてもシンメトリのうつくしいかたちにならないのだ。

中谷は言う。

「研究だけのことを言うなら不完全な雪でも十分だけれど、
つまらないねえ。
せっかくだもの。六花の雪を降らせたいとは思わないか。」

これは、
あとで振りかえるとちいさく歴史に名をとどめるかもしれない、
六角形のちいさな結晶にまつわる、
とある冬の日の物語。

風琴工房の新作「砂漠の音階」は、
雪に捧げた研究者の人生を凝縮したいちにちのおはなしです。
希望を研究したひとたちの、
あかるく、すこしだけ滑稽な、胸にしみいる「その瞬間」を描きます。